ピュリツァー賞2003-2011 |
先日購入したナショジオのピュリツァー賞全記録から、2003-2011について感想など。
第五期、デジタル革命。これは作品解説ではなく、私の感想文です。
確かにデジタルの時代なのですが、私はもう一つ副題をつけたくなります。
「キヤノンの時代」
この章で本書に収録されている16の作品のうち、13がキヤノンを使用しています。圧倒的です。のこり3作品がニコンです。それ以前では、確かキヤノンを使用していたのは3作品だけだと思いますから、劇的な変化です。
2004年のニュース速報部門「イラク戦争」シェリル・ディアス・マイヤー&デービット・リーソンと、2005年のニュース速報部門「イラク再び」AP通信スタッフがイラク戦争を直接取り上げた写真で受賞していますが、それまでの戦争写真とは様変わりしています。アメリカが行う戦争のやり方が、ロボットや誘導ミサイルによるものとなり、従軍記者達が直接激戦の中にいると言うことが無くなりつつあります。それでもアフガニスタンなどでは激戦が行われていますが、正規軍の戦いからゲリラ戦中心に変わったことにより、従軍記者といえども容赦なく命の危険にさらされます。その為かアフガニスタンを扱った作品は一つもありません。戦争の変化が、報道写真にも大きな影響を与えています。
2008年ニュース速報部門「日本人ジャーナリストの死」アドリース・ラティーフ
民主化を求めるミャンマーの争乱の中、取材中のAFP通信記者、長井健司さんが死亡した事件は、日本でも広く報じられました。その証拠となる決定的な写真を撮影したのが、ロイター通信のラティーフです。キヤノンの5Dで撮影されたこの写真は、ロイターに初のピュリツアー賞をもたらしますが、初と言うのはかなり意外です。やはりピュリツアー賞はアメリカの賞ですから、AP通信が圧倒的です
2009年ニュース速報部門「絶望の底のハイチ」パトリック・ファレル
2009年に4回もハリケーンによる大きな被害を受けたハイチを取材した写真ですが、キヤノンG10というコンパクトデジタルカメラによる作品であることが目を引きました。レンズが135mmと記載されていたりするのでひょっとするとまた間違いなのかもしれませんけれど、G10くらいのカメラであれば、十分にこのような取材にも使えるだろうなとは思います。作品はモノクロなので、画質でコンデジを感じるところはありません。
と個人的な趣向から本書について書いてきました。ピュリツアー賞本来とは違う方向性でしたが、世界の歴史と、報道の歴史と、それを見るアメリカの立場、そしてカメラの発達史まで、いろいろな切り口のある写真集だと思います。
その中でも忘れられないのは、1969年の「サイゴンでの処刑」エドワード・アダムスと、1973年の「ナパーム弾から逃げる少女」ニック・ウット。そして1994年の「ハゲワシと少女」ケビン・カーターです。サイゴンでの処刑では、被写体となったロアン中佐に不幸をもたらし、最後は癌でしたが非業の死を遂げます。ナパーム弾から逃げる少女では、被写体となった少女もカメラマンも無事な生涯を送りますが、ハゲワシと少女ではカメラマンのカーターは自殺してしまいます。1枚の写真が、何と大きく人の運命を変えてしまうことでしょうか。
戦争のロボット化は戦争カメラマンの取材にも大きく影響を与え、今後は戦闘そのものの写真よりも特集部門での被害などが伝えられるようになるのでしょう。逆にデジタルカメラの進歩は、想像を超えた写真を見せてくれるのかもしれません。そしてまた、受賞したカメラマンによってこの言葉が語られるのでしょうか。
「ピュリツアー賞を受賞できたことはうれしいが、できるなら、このような(悲惨な)写真でない作品で受賞したかった」と。