EXILM EX-ZR1000 |
Casioのサイトを開いてみて「へー」と思ったのだが、製品情報のトップがデジタルカメラになっている。主な製品として12項目に分けられているのだが、デジタルカメラに続いて時計、電子辞書、電子楽器が1列目に並んでいる。これで見る限りではカシオの一押しはデジタルカメラのようだ。カシオと言えばG-Shockくらいしか思い浮かばない。もちろん電子辞書や電卓、ネームランドなどもあるが、カシオのブランドと言えばG-Shockだろう。筆者の時計もG-Shockだ。ブランドで選んだのではなく、偶然だけれどね。
以前はそんな代表ブランドG-Shockをデジカメにも持ち込んでいたのだが、いつの間にか変わっている。タフからハイスピードへの進路変更をしているのだ。タフさを売りにしたEXILM G EX-G1が発売されたのは2010年の1月のこと。そんなに古い話でもないのだが、この路線は失敗だったらしい。何が良くなかったのだろうか。3m防水と2mの落下耐衝撃。普及機としては十分なものだと思うし、G-Shockのブランドがあれば売れても良さそうに思うのだが、今でもG1は現行製品としてラインナップ中に存在しており、後継機はでていない。
で、路線変更して高速なCMOSを利用したハイスピードを売りにして、それを利用する機能を開発してきた。HDRであったりなのだが、最近は他社も同じような高速CMOSを採用しているため、EXILMだからといって特別にハイスピードではなくなっている。ZR1000も秒30コマの連写が可能だが、他社でも平均的なスペックになってきているし、もっと高速な機種もある。従ってもはやハイスピードを売りにはできなくなったきたわけだ。
そこで考えた(のだろうと思うが)新機能が、全焦点マクロ、である。従来でもいくつかの機種で行われていたと思うが、ピント位置を変えて撮影して合成し、背景をぼかす機能がある。コンパクトデジカメはぼけない(ぼけにくい)ことを補うために開発された機能だ。ZR1000にも搭載されている。ただぼけると言っても、いくらか、なのだな。所詮はコンデジのレンズなので、4.24mm~53.0mm/F3.0~F5.9とぼけるスペックではない。望遠端であっても、一眼レフであれば、50mmレンズをF5.6に絞っているようなものなので、一眼レフユーザーならぼかしたいときに使う組み合わせではないわけだ。だがぼけにくいことはマイナス要素ばかりではない。それを逆手にとって、マクロ撮影しても背景まで全部ピントが合うようにしようという発想をしたわけで、5cmから無限まで(実際には2mくらいまでかな)ピントの位置をずらして連写し、それを合成することで全域にピントのあった写真を作り出すというものだ。これは、新機能である。言われれば思い出すのが、Lytroというカメラだ。とりあえず撮影してファイルをはき出しておいて、撮影後に任意のポイントにピントを合わせることができるというカメラ。カメラとしては簡易的で、大きさからしておそらく小さな撮像素子を使ったものだろう。発想としてはいかにもアメリカ人的(たぶん開発したのはアメリカ人だろうと思うので)だなと思う。どう撮るか、ではなく撮っておいて後でいかようにも利用しようというのは、昨日述べた高倍率ズームで撮っておいて後でレタッチしようという発想とにている。というより同じだろう。レンズの味であるとか、ぼけなどは関係ないという発想のカメラなのだが、カシオもそんなところからヒントを得ているのではないだろうか。
これをやるには特別なフォーマットが必用になるが、カシオは普通にRAWのフォーマットがDNGなので、汎用性があるフォーマットだけれども、撮影後の可変焦点のようなことはできない(と思う)。その代わりに、全域にピントが合う、という機能として世に送り出したわけだ。
ひょっとすると、というか当然考えているだろうと思うが、次は、あるいはその次くらいかには、撮影後の可変焦点、全域ピント画像ファイルとしてはき出せるようにしようと思っているのだろう。ただこのような小さい撮像素子のカメラだと、どのみちあまりぼけないので、一眼レフのような大きなぼけが欲しい場合は、別途ぼかし加工をかけてはき出すような処理が必用になる。そんなことまで考えているのかどうか、考えてはいるだろうけれど、レンズでぼかすほどきれいなぼけが作れるのかどうか。
いろいろと問題はあるけれど、きっとそう言う方向に行くのだろう。理想かどうかは分からないけれど、それで写真がおもしろくなるのかどうかは分からないけれど、たぶんつまらなくなると思うけれど、実用的な目的には、進化といえるようになるのだろう。
カシオはコンデジしかやっていないので平気なのだが、レンズの味を失ってしまったら、カメラが趣味から実用一点張りに変わったら、日本のカメラ産業も危機的になるよ>>カメラメーカー諸氏。解るかな? 解っているかな?
日本の優位性はレンズの味にこだわること、ぼけにこだわること、趣味の道具であることでしか維持できない。誰でも簡単きれいに撮れる、だけのカメラになったら、海外勢に飲み込まれてしまうのだろうな。そんな未来も見えてきそうな気がする、ZR1000なのだった。